【ある事件】忘れられない映画館の思い出
これは、私が小学校低学年だった頃の話です。
私はその頃、同じマンションに住む友だちと、一緒に外で遊び回ることが大好きでした。
マンションの駐車場で、放課後や休日にバドミントン、一輪車、なわとび、鬼ごっこ等、いつも暇さえあれば色々なことをして楽しんでいました。
時には、自転車に乗って走る友だちの後を走って追いかけたりと、今では考えられないほど、とても活発なタイプでした。
マンションの友だちみんなを好きでしたが、特に好きだったのがBちゃんという人です。
Bちゃんと言っても私より少し歳上で、みんなに分け隔てなく、優しく接してくれます。
なので、マンションの友だちにとっても、もちろん私にとっても、Bちゃんは頼れる素敵なお姉ちゃん的存在なのでした。
ある休日、マンションの友だち数人と私、Bちゃんも一緒に、映画館へ映画を観に行くことになります。
いったい何を観たのかは、スッカリ忘れてしまいましたが。(笑)
当日は、その映画館への行きも帰りも、私たち子どもだけで行動することになっています。
それに加えて、友だちと初めての映画館ということもあり、私は少し緊張していました。
けど、その時も一番歳上のBちゃんがリーダーとして、みんなをまとめて引っ張ってくれていたお陰で、安心感もありました。
「やっぱり頼もしいお姉ちゃんだ。」
「私もBちゃんみたいに、自分の妹を助けてあげられるお姉ちゃんになりたい。」
と、Bちゃんを見るたびに思ったものです。
無事に映画館へ到着し、目的の映画も観終わってすぐの出来事でした。
「みんなでジュース買いに行こうよ。」
と、Bちゃんがみんなを誘います。
「確かに少しのどが渇いてるな。」
と思い、友だちも賛同しているようなので、全員で映画館内に設置されている自動販売機へ向かいます。
映画終わりだったので、自動販売機前は行列ができていました。
「みんな、先に並んで好きなの買っておいで。」
とBちゃんに言われ、こんなにも人が並んで待っているのに、自分のことを後回しにできるBちゃんは、やはり素敵だと思いました。
友だち数人が先に並び、その後ろが私で、最後がBちゃんという順番です。
ようやく自動販売機にたどり着き、飲みたいジュースを買い終わって振り返ると、私より先に飲み物を買ったはずの友だちが、誰一人としていないことに気づきます。
一通り見回してみましたが、なぜかBちゃんの姿も見つかりません。
その瞬間、不安には感じたものの、
「きっと外で私を待ってくれているのだろう。」
と思い、すぐ外へ出てみました。
けど、やはりそこにもBちゃんや友だちの姿はありません。
私は迷子になってしまったようです。
一人で帰ろうにも帰り道がわからず、しばらく呆然と立ちつくした後、
「あっ!家に電話かけたら良いやん!」
と気づき、近くの公衆電話で電話をします。
けど、番号を間違えているのか、何度かけても繋がることはありませんでした。
ここで私は、絶望というものを初めてこの身に感じました。
ただ悲しくて、寂しくて、不安で涙が止まらなくなってしまい、その場で号泣していると、ある女性から声をかけられます。
その女性は赤の他人でしたが、迷子になったことを説明すると、車で私の住むマンションまで、親切にも送ってくれたのです。
ようやく家にたどり着き、急いで母に事情を説明すると、送ってくれた女性に何度も何度もお礼の言葉を伝えます。
なぜか、Bちゃんと友だちはすでにマンションへ帰り着いていました。
それから数年後、ふと風の便りによって、あの事件の真相を知ることになります。
私が飲み物を買っている間、Bちゃんは友だち全員に声をかけて、映画館内へ隠れるよう指示していたようなのです。
「ただ私を驚かせたいだけなら、私がみんなを探し始めて、すぐに出てきてくれれば良かったのに。」
そう思いましたが、どうやらそんな単純なものではなく、私はBちゃんに遊ばれてしまっていたようです。
友だちは、Bちゃんに仕方なく従っていたのでしょうか?
それとも、Bちゃんと一緒になって、泣き叫ぶ私を見て笑っていたのでしょうか?
中学生になった私は、学校の移動教室で一度だけBちゃんに出会います。
出会うと言っても、ただ遠くから顔を合わせただけなのですが、Bちゃんは私を見てすぐに笑顔で手を振ってきたのです。
私も手を振ってそれに応えますが、私はBちゃんのこと、さらには私の周りにいるクラスメイトのことすらも、もう信用できなくなっていました。
どうも、ここから私の人見知りが激しくなったような気がします。(笑)